Sound Devices・ZOOM・TASCAM
32bit float録音機をざっくりとテストしつつ比較。(オマケでケーブルの比較も。)
所謂レビューという程の事はしませんが、写真の3台をざっくり比較します。
が、その前に。
まずは現状市販されている”外部マイク入力のある”32bit float対応のレコーダー一式をリスト化、いくつかスペックを抜粋して比較。
製品名 | メーカー | 価格 参考値:サウンドハウス | XLR入力 | 最大サンプリング レート | 入力換算雑音 | 最大入力レベル | 周波数特性 | 電池数 | その他電源 | 記録媒体 | 重量(電池含) |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
MixPre-10 II | Sound Devices | ¥363,000 | 8ch | 192kHz | -128dBu | +14dBu | 10Hz~80kHz | 単3×8本 | Lバッテリー(別売OP)、AC | SDXC | 1092g |
MixPre-6 II | Sound Devices | ¥217,800 | 4ch | 192kHz | -128dBu | +14dBu | 10Hz~80kHz | 単3×4本 | Lバッテリー(別売OP)、AC、USB | SDXC | 655g |
MixPre-3 II | Sound Devices | ¥183,700 | 3ch | 192kHz | -128dBu | +14dBu | 10Hz~80kHz | 単3×4本 | Lバッテリー(別売OP)、AC、USB | SDXC | 567g |
F8n Pro | ZOOM | ¥140,000 | 8ch | 192kHz | -127dBu | +4dBu | 20Hz~60kHz | 単3×8本 | AC | SDXC×2 | 1200g |
F6 | ZOOM | ¥71,800 | 6ch | 192kHz | -127dBu | +4dBu | *20Hz~60kHz | 単3×4本 | Lバッテリー、AC、USB | SDXC | 520g |
F3 | ZOOM | ¥35,000 | 2ch | 192kHz | -127dBu | +4dBu | *20Hz~60kHz | 単3×2本 | AC、USB | microSDXC | 242g |
M4 MicTrak | ZOOM | ¥45,000 | 2ch | 192kHz | -127dBu | +4dBu | *20Hz~60kHz | 単3×4本 | AC、USB | microSDXC | 325g |
Portacapture X8 | TASCAM | ¥59,800 | 4ch | 192kHz | -126dBu | +2dBu | 20Hz~60kHz | 単3×4本 | AC、USB | microSDXC | 472g |
Portacapture X6 | TASCAM | ¥41,500 | 2ch | 96kHz | -125dBu | +2dBu | 20Hz~40kHz | 単3×4本 | AC、USB | microSDXC | 365g |
メーカー毎の特徴としては…
ZOOM
スペックに対しての価格がとても抑えられているのがZOOMで、コスパ最強は間違いなく、
世界で初めて32bit floatレコーダーを発売したのもZOOMなので一日の長も有。
ラインナップも多種多様で、最小・最軽量の「F3」、フラッグシップの「F8n Pro」、その中間としてバランスとコスパに優れる「F6」、マイク型の異端児「M4」。…他にも、マイク入力の無いので取り上げませんが32bit機が複数ラインナップさています。
中でも「F8n Pro」は他メーカー含め32bit float機唯一の「ダブルSDスロット機」。データ保全の観点では現状唯一無二かなとは。
※逆にSound Devicesはあの価格でなんでシングルスロットしか無いんだよと言いたい所ですけど…Sound Devicesはさらに上位機種の8-Seriesなど(32bit機は無いので今回の話の対象外)が所謂業務向け機種なので…まぁしょうがないんですが、だからこそ、この辺のZOOM製品のバランスの良さが際立ちます。
TASCAM
TASCAMに関しては廉価版の「X6」はともかくとして、「X8」に関してもスペック上は若干劣勢な印象ですね。
ただ「X8、X6」は他と違い”ハンディレコーダー”なので、そもそも用途もちょっと違いますし、
「X8」の大きな液晶モニターによる視認性と良好な操作性、そしてハンディ型という事で最も気軽に音を収録出来るのが強みでしょう。
…ただとりあえず「X6」は削られている性能に対して価格差があまり無いので…だったら「X8」で良いのでは…?とは思いますが。
Sound Devices
周波数特性やダイナミックレンジに関してはSound Devicesが圧倒的で、音質に関して32bit float機の中では他の追従を許しません。その分金額も高いです。(Sound Devices製品としては安いけど…)
一応補足として、音質と言ってもこれはスペックの話であって、音の良し悪し・好き嫌いは数値では決まらないですけどね。
実際の所、この周波数特性を活かせるマイクは結構限られますし、この広大なダイナミックレンジを活かせる状況=収録対象もそんなには無いハズなので、サウンドの専門家でない限り、殆どの人にはオーバースペックではあります。
各メーカーから1機種づつピックアップして、軽くRecのテスト
今回はこの中から、以下3機種で簡単なテストを。
—————————
● ZOOM F6
● TASCAM Portacapture X8
● Sound Devices MixPre-10 II
—————————
※ZOOMは本来F8n proで確認すべきかもしれませんが…持ってないのでF6で。マイクプリは同型のハズなのでまぁ良いかなと。
実施内容は2つ。「バッテリーライフ」と「簡易的な録り音の比較」です。
バッテリーライフ
メーカーの連続使用時間って条件がマチマチで全く参考にならないので、以下で統一しつつ比較してみました。
●規定数のニッケル水素単3電池:Panasonic eneloop pro(※新品を満充電したもの、1本2500mAh)を使用
●フォーマットはサンプリングレート「192kHz」ビット数「32bit float」に設定
●4ch分を収録(MKH8040×4本):Phantom ON
●他、使わないチャンネルはOFF状態に。BluetoothもOFF
●上記状態で録音開始し、電源が強制的に落ちるまでの時間を計測。
した結果が以下。
製品名 | 連続録音時間 | 電池1本辺りの効率 |
---|---|---|
F6 | 4時間8分49秒 | ÷4本 = 1時間2分12秒 |
Portacapture X8 | 3時間27分14秒 | ÷4本 = 51分49秒 |
MixPre-10 II | 3時間12分3秒 | ÷8本 = 24分 |
F6が余裕の1位。F6は他に本体直差しでL-mount バッテリーも使えるので使い勝手良いんですよね~。
X8はもっと長持ちするイメージがあったんですけど、意外とそうでもなかったですね、液晶のハンデかな?
※一定時間で液晶の明度が落ちる設定にはしています。
MixPre-10 IIは「8本」でこの結果なのでダントツビリですけど、まぁSD社は「効率よりも音質」がモットーなハズなので当然かなと。ただMixPre-10 IIはUSB給電も非対応で、L-Mountも対応はしているものの別売りのアダプターが必要な事もあって、外部電源の確保がちょっと手間で地味に大変す…Hirose 4-pinに対応出来るモバイルバッテリーは結構限られてるし。。。
ちなみに余談ですが、何れの機種も、強制的に電源が切れる直前までの音を、データに破損も無くしっかり録音してくれていました。
ざっくりと周波数特性等をテスト
テスト方法としては画像のような感じで。
予め用意した192kHz/24bitで制作したノイズやスイープ、適当な物理音をスピーカーから再生し、それをマイクで拾う。を機種分繰り返す形です。
マイクは「C414」と「MKH8020」で確認しています。
※帯域のチェックとしては「CO-100K」、ノイズチェックとしては「LCT 540S」辺りが適任でしょうけど…どちらも無かったので!
本当は生音録りながらも確認したいですが…比較としてほぼ同じ状態の再現性が大事なのでこの形で。
あまり実験に割ける時間も無かったし。。
で、結果が以下ですね。
録り音をスペクトログラムで比較
収録したデータの音量を揃えた上でスペクトログラム化したのが以下の画像群。
ド頭の他より全体が濃い箇所がフロアノイズで、視覚的に分かりやすいよう+15dbしています。
その後の箇所が用意した波形を再生した部分です。
※PCで観ている場合、画像クリックして左右キーで比較しやすいかと。
■c414、CANARE L-4E6S、logスケール
■c414、CANARE L-4E6S、linearスケール
■MKH8020、CANARE L-4E6S、logスケール
■MKH8020、CANARE L-4E6S、linearスケール
F6
「F6」は一定以上の音声入力がある箇所に関して、天井からグラデーションが掛かるように強めのヒスノイズが乗る不自然な境目があります。音量での切り替わりなのでここが恐らくデュアルA/Dコンバーターの変わり目なんでしょう。ローゲイン側に原因がありそうです。(※ちなみにF3でも同じような結果でした。)
ただ視覚的には気持ち悪いですが…試聴的には見た目のような影響はないので、致命的な問題ではないです、
が、レートやピッチの変換等の設定次第では明確なノイズになってしまうので、F6は原則サンプリングレートは48か96kHzでの使用が現実的で、192kHzでの収録では難ありです。
sankenの「CO-100K」みたいな極端な広帯域収音マイクを使う場合はまともに収録できないでしょう。
なお今回はあくまでテストとして比較的大音量での収録をしていますが、収録対象の音量次第でこの症状が一切出ない事もありますのであしからず。…といってもそれじゃ32bit floatを使う意味が無いですが。
※ちなみに8020の方は高域に変な…周波数に動きのあるノイズが載ってますが、これはF6とMKHとの相性っぽくて普段から結構な頻度で乗るんですよね、ただそもそもマイクの周波数特性外の部分なので気にしてません。
PortacaptureX8
「PortacaptureX8」に関してはあからさまに全体にノイズ量が多いですが、これはスペックの通りでX8はこの3台の中で最も入力換算雑音の性能が悪いので順当な感じ。
F6で出ている不自然なヒスノイズの境目もよーく見ると控えめにですが発生してます。同じくデュアルA/Dコンバーター式なので同様の理由かなと。ただ冒頭のフロアノイズ部分を見るに、境目がうっすらしているのはそもそもハイゲインの時点でヒスノイズが大きいからな可能性があるかも…?
まぁこれがディザリング的な役目を成して、好みな音になる可能性もあるし。良し悪しは判断しにくいです。
ただ、36.5kHz辺りに一定のノイズが載りますね、どちらのマイクでも同様に出ているのでプリに問題がありそうですし、この帯域だとサンプリングレートが96kHzでも影響がでちゃうので、特に音を加工する場合は結構気にはなります。
MixPre-10 II
「MixPre-10 II」は流石ですね、ノイズリダクションでもしたのかな?ってくらい他と比較して綺麗な録り音です。他より低域も拾いつつ、特に高域は96kHzギリギリまでしっかり音が入ってます。この辺り、スペック上の周波数特性が10Hz~80kHzなので公称通りの結果ですね。単純に帯域だけで言えばどんなマイクの性能でも活かしてくれそうです。
※ここむしろ周波数特性~20kHzなのにここまで拾ってるc414が凄い気がしますけど………
もちろん当然ですけどF6やX8にある不自然な境目もありません。
懸念はバッテリーパフォーマンスくらいですね。
なおMixPre-10 IIに関してはオマケで、以下も掲載しておきます。
オマケ:ケーブルによる差の検証
同様のテストをケーブルを変えてつつ行った結果です。
↑画像手前からCANARE L-4E6S(4芯) BELDEN 1192A(4芯) BELDEN 88770(3芯) MOGAMI 2549(2芯) ノーブランド品(不明) の5本で試してみます。
概ねどのケーブルも特段問題なく、オーディオマニアの世界の差かなって感じです。
まぁ音質云々より色々な使用状況下での取り回しとかノイズ耐性が大事ですし、自分の使用環境に合わせて好みでOKかなと。
ただこの結果だけで見たときに、1192Aとノーブランド品はちょっと不自然なノイズが乗ってはいそうで、ノーブランド品はわかるとしても1192Aはどうしたん?
なおノーブランド品はこの結果はたまたまであって、その都度品質が未知数なので、使わないにこしたことはないです…音質云々より特にコネクタ部分の噛み合わせが甘いので機材が壊れそうで怖いし、ちょっとした衝撃でノイズ出ますし…今回テストとして繋いでますが、個人的にはまず使うことはありません。
オマケ2:PortacaptureX8備え付けの標準マイク
せっかくなのでPortacaptureX8付属のマイクでも一応テスト。linearスケールでc414と比較してみてます。
36.5kHz辺りのノイズは相変わらずですが、専用設計だからか少し傾向が変わるようでヒスノイズがほぼ居なくなるんですよね、ただ逆に境目が目立つようになってるんですけど、マイク感度の関係での内部的な入力レベルの都合…なのかなぁ…?知らんけど。
ただ音質は思ったより良好で、聴いた感じ結構良い質感でした。32bit float機で唯一、TASCAMだけハンディ型として発売しているのはダテじゃないですね。
まとめ
という程じゃないですが、32bit floatレコーダーの簡単な比較テストでした。
誰かしらの参考になれば良いなとは思いつつ。
なんかZOOMの印象を悪くしそうでちょっと心配ですけど、良いレコーダーですからね?ZOOM。
HP上の記事という所でわかりやすくスペクトログラムで掲載しているというだけで、音はあくまで「耳」で判断するものって所は誤解なきよう。大事なのはレコーダーにしろマイクにしろ「○○の音が好きだ」っていう自分の気持ちだと思うので。
人により求める性能はまちまちですし、バッテリーの持ちを重視するならば効率も良い上にSONY Lバッテリーも直差し出来る「F6」が便利ですしコスパも良い。手軽さや大きなタッチパネルによる操作性を求めるなら「X8」だし。
とにかく音質を突き詰めたいなら「MixPre」シリーズですけど他より高いですし。
人それぞれ使いたい機材を使えばいいと思います。
以上!